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【MMSEとは】
認知機能の低下レベルを客観的に把握するための検査で、簡便に使用できるため世界的に使われています。記憶力、言語能力、視空間認知機能を評価できるのが特徴です。
代表的な認知機能検査に改訂長谷川式簡易知能検査(HDS-R)がありますが、こちらは記憶力の評価を主軸に置いています。
MMSEは、1975年にアメリカの精神科医であるマーシャル・フォルスタイン氏とスーザン・フォルスタイン氏、ポール・マクヒュー氏によって開発された認知機能評価ツールです。この検査は、認知症やその他の認知機能障害のスクリーニングを目的としており、短時間で実施可能な簡便な方法として広く使用されています。
MMSEは、見当識、記憶、注意、計算、言語、構成能力など、複数の認知領域を評価する11の項目から構成されています。全体の所要時間は約10~15分で、30点満点で採点されます。日本においては、2006年に杉下守弘医師によって日本語版である「MMSE-J」が作成され、国内の医療現場で広く利用されています。
MMSEは、認知症のスクリーニング検査として世界的に最も多く用いられており、特にアルツハイマー型認知症の疑いがある場合に多く使用されています。ただし、MMSEはあくまでスクリーニング検査であり、これだけで認知症と断定することはできません。他の検査や医師の総合的な判断と組み合わせて使用されます。
【準備】
・筆記用具、評価用紙
・テストで使用する時計または鍵、白紙の用紙
・人の出入りが少なく、設問に集中できる静かな場所
【評価方法】
・著作権の問題で、本ページには載せていません。検索すれば、いっぱい出てきますが、、。
webページ上のMMSEと、MMSE-J(日本語版MMSE)は、厳密には違います。
・MMSE-Jは改訂を繰り返しています。最新版は日本文化科学社のページから購入できます。
(https://www.nichibun.co.jp/seek/kensa/mmse_j.html)
【判定】
・21点以下/30点:認知症の疑いがあると判断
・22〜26点/30点:軽度認知障害(MCI)の疑いがあると判断
ただし、あくまでスクリーニング検査なので、本人や家族から生活状況を聞き取り、
MRIやCTなどの画像検査をして、慎重に診断する必要があります。
【項目の解説】
1:日時に関する見当識を確認します。年は西暦でも年号でも正答。
季節は春夏秋冬のほかに初夏や梅雨でも正答。曜日や、月日に関しては誤っていたら不正解。
2:病院名などは正式名称でなくても正答。
3:3つすべて答えられるまで行う。
6回繰り返しても答えられない場合は終了。その場合は答えた単語の数が得点。
4:100-7で「93」と正解したら、再び7を引いた数を問います。
このように7を引く計算を5回繰り返します。計算を間違えたり答えられなかった場合
中止になり、正解数×1点が得点。
5:単語が合っていれば答える順番は問わない。答えが出てこない場合は、質問者がヒントを出しても
問題なし。ヒントの有無にかかわらず、正解すれば単語1つにつき1点が得点。
6:2つの物品について順番に質問。正解すると得点は各1点。通称でも正解。
7:一度で正確に答えられたら得点は1点、1つでも単語を間違えたら不正解。
8:3段階の指示を出します。途中で混乱したり、指示に従えなければ中止。
耳が聞こえにくい場合は繰り返しても問題なし。
1段階ずつ正しく作業できれば1点とし、すべてできれば合計得点は3点。
9:紙に書かれた文章を読み、指示を実行してもらいます。指示通りの行動ができれば正解。
10:自由に作文をしてもらい、意味が理解できる文章を書ければ正解。
11:1ヵ所交差していれば正解。
角が5つではない、線が閉じていない、2つの図形が交差していないなどの場合は不正解。
【ポイント】
・認知機能の評価は、その他の検査の信頼性や判定に影響する検査であるため、
できるだけ早めに実施することをお勧めします。
・他の認知機能検査には、長谷川式認知機能スケール、
DASC-21(地域包括ケアシステムにおける認知症アセスメントシート)、CDT(時計描画テスト)、
MRBMT(リバーミード行動記憶検査)、oCA-J(日本語版Montreal Cognitive Assessment)等が
あります。
・認知機能検査は、事前に説明しておかないと相手を不快にしてしまう可能性があるため
経験的には、「これから行う検査は、とても簡単な問題と、難しい問題があります。
大切な検査ですので、ご協力をお願いします。」というように、簡単な問題で相手が不快にならない
ないように、配慮して実施する必要があります。
【ふかぼりコラム①】開発時にデータ改ざんがあった!?
●MMSEの日本語版の開発時にデータ改ざんがあった!?
MMSEは、世界で最も使用されている認知症のスクリーニング検査といっても過言ではないほどの有名な検査です。歴史的には、認知症の診断のために米国の精神科医 Marshal F. Folstein、 Susan E. Folstein、 Paul R. McHugh、 によって開発され、1975年にJournal of Psychiatric Researchに投稿されています。
当然、原文は英語であったためそのまま日本人には使用できませんでしたが、1985年に森 悦郎ら、1991年に北村 俊則、2000年に小海宏之らが、MMSEの日本語版を作成しています。上記の3つの日本語版は、検査としては原版より鋭敏であったため、等価性が欠けているとの指摘があった。そこで、2006年に杉下 守弘が、原版と等価なMMSE-J(精神状態短時間検査-日本版)を開発した。
このMMSE-Jは国際研究「アルツハイマー病神経画像戦略(ADNI)の日本支部(J-ADNI)で使用され、そのデータを元に2010年に信頼性と妥当性が検討された。ところが、2012年に製薬会社社員によりJ-ANDI データの改ざんが報告され、2年後の2014年には東京大学調査委員会に改ざんやプロトコル違反などが報告された。その後、第三者委員会では問題なしとなったが、杉下 守弘らは、自らの論文の信頼性と妥当性を再検証し、MMSE-J が認知症の方へのスクリーニング検査として使用可能であることを示した。
MMSEについてふかぼりしてみましたが、日本語版の作成にこんな歴史があったなんて驚きですね、、、。
杉下先生のMMSE-J(日本語版MMSE)は、日本文化科学社のページから購入できます。
(https://www.nichibun.co.jp/seek/kensa/mmse_j.html)
【ふかぼりコラム②】MMSEは教科書から姿を消す?
上記のとおり、MMSEは1975年に開発され世界的に使用されていましたが、著者らは2000年に著作権を管理する組織 Psychological Assessment Resources(PAR)を立ち上げ、翌年にMMSEの著作権を移しました。
その後も有償で使用することは可能ですが、無断でのコピーやダウンロードは違法となります。そのため、多くの教科書やWebサイトから削除されています。
また、the Sweet 16という認知機能スクリーニングツールは、検査項目(見当識、3物品想起、数唱)の類似性から、PARの求めに応じてWeb上から削除されています。
個人的には学術的な発展のために、copyright(著作権)よりは、copyleft(著作者の意思で、他の人が著作物を自由に複製してもよいこと)にしていただけるとよいと思いますが、、。
【参考・引用】
・杉下他:精神状態短時間検査-日本版(MMSE-J)の妥当性と信頼性に関する再検討. 認知神経科学 Vol.18 No.3・4.2016
・杉下他: MMSE- J(精神状態短時間検査-日本版)原法の妥当性と信頼性.認知神経科学 Vol. 20 No. 2.2018