目次
【PHQ-9(Patient Health Questionnaire-9)とは】
歴史
PHQ-9は1999年にSpitzer、Kroenkeらによって開発され、プライマリケアでのうつ病スクリーニングを目的として作成されました。DSM-IVのうつ病診断基準に基づいて設計されており、妥当性・信頼性の高い評価尺度として国際的に広く用いられています。
参考文献
Kroenke K, Spitzer RL, Williams JB. (2001). The PHQ-9: Validity of a brief depression severity measure. Journal of General Internal Medicine.
開発の背景
従来のうつ病評価尺度は項目数が多く、臨床現場での負担が課題でした。PHQ-9は、短時間で実施でき、かつ診断支援と重症度評価の両方に活用できる点が特徴です。その簡便さから、初期評価や経過観察にも適しています。
【準備】
PHQ-9は特別な準備を必要とせず、対象者に「過去2週間」を振り返ってもらいながら回答してもらいます。各質問は以下の4段階で評価されます。
- まったくない(0点)
- 数日(1点)
- 半分以上(2点)
- ほぼ毎日(3点)
【採点のポイント】
9項目の合計点は0~27点となります。点数が高いほど抑うつ症状が強いことを示します。スクリーニング目的のため、診断の確定には専門的評価が必要です。
【判定】
PHQ-9の合計点は、以下のように解釈されます。
- 0~4点:抑うつ症状なし~最小限
- 5~9点:軽度の抑うつ
- 10~14点:中等度の抑うつ
- 15~19点:中等度~重度の抑うつ
- 20~27点:重度の抑うつ
10点以上は臨床的に注意が必要とされ、追加評価や支援の検討が推奨されます。
【項目の解説】
PHQ-9の判定項目は、うつ病の主要な症状を網羅し、個々の症状がどの程度の影響を及ぼしているかを評価するために設計されています。
- 気分の落ち込み、抑うつ、絶望感
うつ病の代表的な症状の一つで、長期間にわたって気分が沈み、楽しさや希望を感じられなくなる状態です。特に、日常生活での興味や喜びの減退と密接に関係しています。 - 興味や喜びの喪失
以前楽しんでいた趣味や活動に対して関心を持てなくなり、何をしても楽しいと感じられなくなることを指します。社会的な交流も避けるようになり、孤立しやすくなる傾向があります。 - 睡眠障害(不眠または過眠)
うつ病の症状として、寝つきが悪い、途中で目が覚める、朝早く目が覚めるなどの不眠症状がよく見られます。一方で、一日中眠気が取れず、過眠になるケースもあります。これにより、日常生活のリズムが乱れることが多いです。 - 疲労感やエネルギーの欠如
体を動かす気力がわかず、些細な動作でも極度の疲れを感じることがあります。身体的な病気がないにもかかわらず、常に倦怠感を覚え、活動量が減少する傾向があります。 - 食欲の変化(減少または増加)
食欲が著しく減退し、食事をとることすら苦痛に感じる場合があります。その逆に、ストレスによる過食が見られることもあり、体重の増減が顕著になります。 - 自己評価の低下や罪悪感
自分の価値がないと感じたり、些細なことで過度に自責の念を抱いたりすることが特徴です。過去の出来事を悔やみ、「自分は無能だ」「何をやってもダメだ」と考える傾向があります。 - 集中力の低下や決断困難
以前は難なくこなせていた作業が困難に感じられ、仕事や学業のパフォーマンスが低下します。考えがまとまらず、簡単な決断を下すことすら負担になることがあります。 - 動作や話し方の変化(遅くなるまたは落ち着かない)
周囲から見て気づかれるほど動作が遅くなったり、逆に焦燥感が高まり、落ち着きがなくなったりすることがあります。話し方や表情が乏しくなるのも特徴の一つです。 - 自傷や自殺の念
最も重篤な症状の一つで、死にたいという考えが頻繁に浮かぶようになります。具体的な自殺計画を立てる場合もあり、危険度が高い状態とみなされます。この項目が強く該当する場合は、速やかに専門家の支援を受けることが重要です。
PHQ-9の判定項目は、それぞれがうつ病の診断基準に基づいており、これらの症状が2週間以上続く場合は、専門医の診察を受けることが推奨されます。うつ病は早期発見と適切な治療が重要であり、PHQ-9を活用することで、より迅速な対応が可能になります。
参考文献
・Kroenke K, Spitzer RL, Williams JB. (2001). “The PHQ-9: Validity of a Brief Depression Severity Measure.” Journal of General Internal Medicine.
・Spitzer RL, Kroenke K, Williams JB, et al. (1999). “Validation and Utility of a Self-report Version of PRIME-MD: The PHQ Primary Care Study.” JAMA.。
【ポイント】
- 短時間で実施可能
- 経過観察に向いている
- 診断ではなくスクリーニングである
【評価で終わらせないために】
PHQ-9は「気づくための道具」です。 点数が高かった場合でも、すぐに治療が必要とは限りません。 まずは、不安が強くなる場面や生活リズムを整理し、 セルフモニタリングから始めるケースも多くあります。
評価のあとに:不安の記録と振り返りを続ける
PHQ-9の点数をきっかけに、「いつ・どんな場面で不安が強くなるか」を 記録していくと、支援や相談の質が高まります。 臨床・日常のどちらでも使えるツールとして、アプリを併用する方法もあります。
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不安症状との関係
抑うつ症状と不安症状は併存することが多く、抑うつ評価とあわせて不安評価を行うことで、より全体像を把握しやすくなります。不安の評価には、以下の尺度がよく用いられます。
▶ GAD-7(Generalized Anxiety Disorder-7)とは?不安障害の評価方法
まとめ
PHQ-9は、うつ病のスクリーニングと重症度評価を簡便に行える信頼性の高い尺度です。評価結果を共有することで、多職種間の情報共有や支援方針の検討に役立ちます。
関連する評価尺度
・HAM-D (臨床家の観察と判断が重要)
・GAD-7(不安症状の評価)
【ふかぼりコラム①】PHQ-9の意外な活用法

PHQ-9は医療機関だけでなく、企業や学校など、さまざまな場面で活用されています。例えば、近年では従業員のメンタルヘルスを管理するために、多くの企業がPHQ-9を導入しています。特に長時間労働やストレスの多い職場では、従業員の精神的健康を定期的にチェックすることが重要視されています。
また、大学や高校でもPHQ-9を活用する例が増えています。学生のメンタルヘルスの問題は学業成績や対人関係に大きな影響を及ぼすため、定期的なチェックを行い、必要に応じてカウンセリングを提供することで早期介入が可能になります。
さらに、PHQ-9はデジタルヘルス分野でも活用されています。スマートフォンアプリやオンラインカウンセリングプラットフォームに統合されることで、ユーザーが気軽に自己評価を行い、専門家と連携する仕組みが整備されつつあります。これにより、医療機関を受診するハードルが下がり、うつ病の早期発見・治療につながる可能性が高まっています。
【ふかぼりコラム②】PHQ-9が開発されなかったら?

もしPHQ-9が開発されなかったら、うつ病のスクリーニングはどのように行われていたでしょうか?
過去には、うつ病の診断は主に長時間の対面問診を通じて行われていました。しかし、診療時間の限られた現代の医療現場では、短時間でうつ症状の評価を行うことが求められています。もしPHQ-9のような簡便なスクリーニングツールが存在しなかった場合、患者はより多くの時間と費用をかけて専門医の診察を受ける必要があったかもしれません。
また、PHQ-9は医療機関だけでなく、一般の人々が自分自身のメンタルヘルスを簡単に評価できる点でも重要な役割を果たしています。もしPHQ-9がなければ、うつ病の自己評価はより難しくなり、早期発見の機会を逃してしまう可能性が高まっていたでしょう。
さらに、PHQ-9は研究分野にも大きな影響を与えています。臨床試験や疫学調査で広く使用されることで、うつ病の発症率や治療の有効性に関するデータ収集が飛躍的に向上しました。これがなければ、うつ病治療の進歩も遅れていたかもしれません。
このように、PHQ-9が開発されなかった世界を想像すると、その影響力の大きさがより鮮明に浮かび上がります。現在では当たり前のように利用されているPHQ-9ですが、その存在は現代のメンタルヘルスケアにおいて不可欠なものとなっています。
参考文献
・Kroenke K, Spitzer RL, Williams JB. (2001). “The PHQ-9: Validity of a Brief Depression Severity Measure.” Journal of General Internal Medicine.
・Spitzer RL, Kroenke K, Williams JB, et al. (1999). “Validation and Utility of a Self-report Version of PRIME-MD: The PHQ Primary Care Study.” JAMA.

