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【PHQ-9(Patient Health Questionnaire-9)とは】
PHQ-9(Patient Health Questionnaire-9)は、うつ病のスクリーニングおよび重症度評価を行うための自己報告式質問票です。9つの質問から構成されており、各項目がDSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル)のうつ病診断基準に対応しています。簡便かつ短時間で実施できるため、医療機関だけでなく、企業のメンタルヘルスチェックや自己評価にも広く活用されています。
歴史
PHQ-9は1999年にアメリカで開発され、短期間で世界的に普及しました。もともとはPHQ(Patient Health Questionnaire)の一部として作成され、特にうつ病の評価に特化したスケールとして独立しました。以降、多くの臨床試験を経て、その有効性と信頼性が証明され、世界各国の医療現場で標準的なうつ病スクリーニングツールとして用いられるようになりました。
参考文献
Kroenke K, Spitzer RL, Williams JB. (2001). “The PHQ-9: Validity of a Brief Depression Severity Measure.” Journal of General Internal Medicine.

開発の背景
PHQ-9は、従来のうつ病診断方法が時間と労力を要することから、より簡便で実用的なスクリーニングツールを作成する目的で開発されました。質問項目はDSM-5の診断基準と一致しており、患者が自身の症状を客観的に評価できるように設計されています。また、短時間で実施可能なため、初診時の迅速な評価や治療の経過観察にも適しています。
参考文献
Kroenke K, Spitzer RL, Williams JB. (2001). “The PHQ-9: Validity of a Brief Depression Severity Measure.” Journal of General Internal Medicine.

【準備】
PHQ-9の実施には特別な準備は必要ありません。対象者には過去2週間の自分の状態について考えながら、9つの質問に回答してもらいます。各質問は「まったくない(0点)」「数日(1点)」「半分以上(2点)」「ほぼ毎日(3点)」の4段階で評価されます。静かで落ち着いた環境で回答できるように配慮すると、より正確な結果が得られます。
参考文献
Spitzer RL, Kroenke K, Williams JB, et al. (1999). “Validation and Utility of a Self-report Version of PRIME-MD: The PHQ Primary Care Study.” JAMA.
【採点のポイント】
PHQ-9の採点方法は非常にシンプルで、9つの質問の合計点を算出します。スコアは0~27点の範囲で、点数が高いほどうつ病の症状が重いことを示します。一般的な基準は以下の通りです。
- 0~4点:うつ症状なし
- 5~9点:軽度のうつ症状
- 10~14点:中等度のうつ症状
- 15~19点:中等度から重度のうつ症状
- 20~27点:重度のうつ症状
スコアが10点以上の場合、医師によるさらなる評価が推奨されます。
参考文献
Kroenke K, Spitzer RL, Williams JB. (2001). “The PHQ-9: Validity of a Brief Depression Severity Measure.” Journal of General Internal Medicine.
【判定】
PHQ-9のスコアに基づいて、うつ病のリスクや重症度を判定します。特に15点以上の場合は、日常生活への支障が大きい可能性があり、専門医の診察を受けることが強く推奨されます。ただし、スクリーニングツールであるため、最終的な診断は専門家の判断に委ねられます。
参考文献
Spitzer RL, Kroenke K, Williams JB, et al. (1999). “Validation and Utility of a Self-report Version of PRIME-MD: The PHQ Primary Care Study.” JAMA.
【項目の解説】
PHQ-9の判定項目は、うつ病の主要な症状を網羅し、個々の症状がどの程度の影響を及ぼしているかを評価するために設計されています。
- 気分の落ち込み、抑うつ、絶望感
うつ病の代表的な症状の一つで、長期間にわたって気分が沈み、楽しさや希望を感じられなくなる状態です。特に、日常生活での興味や喜びの減退と密接に関係しています。 - 興味や喜びの喪失
以前楽しんでいた趣味や活動に対して関心を持てなくなり、何をしても楽しいと感じられなくなることを指します。社会的な交流も避けるようになり、孤立しやすくなる傾向があります。 - 睡眠障害(不眠または過眠)
うつ病の症状として、寝つきが悪い、途中で目が覚める、朝早く目が覚めるなどの不眠症状がよく見られます。一方で、一日中眠気が取れず、過眠になるケースもあります。これにより、日常生活のリズムが乱れることが多いです。 - 疲労感やエネルギーの欠如
体を動かす気力がわかず、些細な動作でも極度の疲れを感じることがあります。身体的な病気がないにもかかわらず、常に倦怠感を覚え、活動量が減少する傾向があります。 - 食欲の変化(減少または増加)
食欲が著しく減退し、食事をとることすら苦痛に感じる場合があります。その逆に、ストレスによる過食が見られることもあり、体重の増減が顕著になります。 - 自己評価の低下や罪悪感
自分の価値がないと感じたり、些細なことで過度に自責の念を抱いたりすることが特徴です。過去の出来事を悔やみ、「自分は無能だ」「何をやってもダメだ」と考える傾向があります。 - 集中力の低下や決断困難
以前は難なくこなせていた作業が困難に感じられ、仕事や学業のパフォーマンスが低下します。考えがまとまらず、簡単な決断を下すことすら負担になることがあります。 - 動作や話し方の変化(遅くなるまたは落ち着かない)
周囲から見て気づかれるほど動作が遅くなったり、逆に焦燥感が高まり、落ち着きがなくなったりすることがあります。話し方や表情が乏しくなるのも特徴の一つです。 - 自傷や自殺の念
最も重篤な症状の一つで、死にたいという考えが頻繁に浮かぶようになります。具体的な自殺計画を立てる場合もあり、危険度が高い状態とみなされます。この項目が強く該当する場合は、速やかに専門家の支援を受けることが重要です。
PHQ-9の判定項目は、それぞれがうつ病の診断基準に基づいており、これらの症状が2週間以上続く場合は、専門医の診察を受けることが推奨されます。うつ病は早期発見と適切な治療が重要であり、PHQ-9を活用することで、より迅速な対応が可能になります。
参考文献
・Kroenke K, Spitzer RL, Williams JB. (2001). “The PHQ-9: Validity of a Brief Depression Severity Measure.” Journal of General Internal Medicine.
・Spitzer RL, Kroenke K, Williams JB, et al. (1999). “Validation and Utility of a Self-report Version of PRIME-MD: The PHQ Primary Care Study.” JAMA.
【ポイント】
PHQ-9を活用する際のポイントは以下の通りです。
- 簡単に実施可能であり、短時間で評価できる。
- 診断の確定には追加の専門的評価が必要。
- 継続的に使用することで、治療の効果測定が可能。
参考文献
Spitzer RL, Kroenke K, Williams JB, et al. (1999). “Validation and Utility of a Self-report Version of PRIME-MD: The PHQ Primary Care Study.” JAMA.
【ふかぼりコラム①】PHQ-9の意外な活用法

PHQ-9は医療機関だけでなく、企業や学校など、さまざまな場面で活用されています。例えば、近年では従業員のメンタルヘルスを管理するために、多くの企業がPHQ-9を導入しています。特に長時間労働やストレスの多い職場では、従業員の精神的健康を定期的にチェックすることが重要視されています。
また、大学や高校でもPHQ-9を活用する例が増えています。学生のメンタルヘルスの問題は学業成績や対人関係に大きな影響を及ぼすため、定期的なチェックを行い、必要に応じてカウンセリングを提供することで早期介入が可能になります。
さらに、PHQ-9はデジタルヘルス分野でも活用されています。スマートフォンアプリやオンラインカウンセリングプラットフォームに統合されることで、ユーザーが気軽に自己評価を行い、専門家と連携する仕組みが整備されつつあります。これにより、医療機関を受診するハードルが下がり、うつ病の早期発見・治療につながる可能性が高まっています。
【ふかぼりコラム②】PHQ-9が開発されなかったら?

もしPHQ-9が開発されなかったら、うつ病のスクリーニングはどのように行われていたでしょうか?
過去には、うつ病の診断は主に長時間の対面問診を通じて行われていました。しかし、診療時間の限られた現代の医療現場では、短時間でうつ症状の評価を行うことが求められています。もしPHQ-9のような簡便なスクリーニングツールが存在しなかった場合、患者はより多くの時間と費用をかけて専門医の診察を受ける必要があったかもしれません。
また、PHQ-9は医療機関だけでなく、一般の人々が自分自身のメンタルヘルスを簡単に評価できる点でも重要な役割を果たしています。もしPHQ-9がなければ、うつ病の自己評価はより難しくなり、早期発見の機会を逃してしまう可能性が高まっていたでしょう。
さらに、PHQ-9は研究分野にも大きな影響を与えています。臨床試験や疫学調査で広く使用されることで、うつ病の発症率や治療の有効性に関するデータ収集が飛躍的に向上しました。これがなければ、うつ病治療の進歩も遅れていたかもしれません。
このように、PHQ-9が開発されなかった世界を想像すると、その影響力の大きさがより鮮明に浮かび上がります。現在では当たり前のように利用されているPHQ-9ですが、その存在は現代のメンタルヘルスケアにおいて不可欠なものとなっています。
参考文献
・Kroenke K, Spitzer RL, Williams JB. (2001). “The PHQ-9: Validity of a Brief Depression Severity Measure.” Journal of General Internal Medicine.
・Spitzer RL, Kroenke K, Williams JB, et al. (1999). “Validation and Utility of a Self-report Version of PRIME-MD: The PHQ Primary Care Study.” JAMA.
その他の 精神医学的評価
・HAM-D(Hamilton Depression Rating Scale:ハミルトンうつ病評価尺度)