HAM-D(ハミルトンうつ病評価尺度)とは?評価方法・採点基準・使い方をわかりやすく解説【医療職向け】

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【HAM-D(Hamilton Depression Rating Scale:ハミルトンうつ病評価尺度)とは】

HAM-Dは、1960年にイギリスの精神科医マックス・ハミルトン(Max Hamilton)によって開発されました。彼は当時、うつ病の重症度を客観的に測定する方法が不足していることに着目し、臨床評価の一環としてこのスケールを作成しました。
HAM-Dは、もともと薬物治療の効果を測定する目的で開発されましたが、その後、うつ病の診断補助や治療経過の評価にも活用されるようになりました。現在では、医療機関や研究機関において、うつ病患者の状態を客観的に評価するための標準的な指標として使用されています。主に医師や看護師、心理職などの医療従事者が、面接を通して患者の症状を評価します。

自己記入式であるPHQ-9とは異なり、HAM-Dは臨床家の観察と判断を重視する点が特徴で、治療効果判定や経時的変化の把握に広く用いられています。

参考文献:
Hamilton, M. (1960). “A rating scale for depression.” Journal of Neurology, Neurosurgery, and Psychiatry.

歴史

HAM-Dは1960年に初めて発表され、1966年、1967年、1969年、1980年に改訂が行われました。初期の目的は抗うつ薬の効果を評価することでしたが、現在ではうつ病の重症度を測る標準的な尺度として用いられています。

参考文献
Hamilton M. Development of a rating scale for primary depressive illness. British Journal of Social and Clinical Psychology. 1967;6:278-296.

開発の背景

抗うつ薬の治療効果を客観的に評価する目的で開発され、症状の有無だけでなく重症度の変化を数値化できる点が重視されました。そのため、現在でも薬物療法の効果判定指標として用いられています。

【準備】

HAM-Dは面接評価が基本となります。評価者は患者の表情、話し方、行動、訴えを総合的に観察しながら、過去1週間程度の状態を中心に質問を行います。

短時間で済ませるよりも、落ち着いた環境で信頼関係を保ちながら実施することが重要です。

【採点のポイント】

HAM-Dには複数のバージョンがありますが、最も一般的なのは17項目版(HAM-D17)です。各項目は0~2点、または0~4点で評価され、合計点で重症度を判断します。

【判定】

  • 0~7点:正常範囲
  • 8~13点:軽度うつ病
  • 14~18点:中等度うつ病
  • 19~22点:重度うつ病
  • 23点以上:非常に重度

治療開始前後でのスコア変化を見ることで、治療反応性の評価に役立ちます。

参考文献:
Bech, P. (2006). “Rating scales in depression: Limitations and pitfalls.” Dialogues in Clinical Neuroscience.

【項目の解説】

HAM-Dは、うつ病の症状を多角的に評価するために、複数の項目で構成されています。それぞれの項目は、患者の精神的・身体的な状態を把握するために重要です。ここでは、各項目の意味と評価のポイントについて詳しく解説します。

1.抑うつ気分(Depressed Mood)

  • 概要:患者がどの程度悲しみを感じているかを評価する。
  • 評価ポイント
    • 軽度:時折気分が落ち込むが、日常生活に大きな影響はない。
    • 中等度:頻繁に悲しみを感じ、涙を流すことがある。
    • 重度:ほぼ常に抑うつ気分が続き、絶望感が強い。

2.罪責感(Feelings of Guilt)

  • 概要:患者が自己を責める感情がどの程度強いかを評価する。
  • 評価ポイント
    • 軽度:過去の失敗を思い出して自己批判することがある。
    • 中等度:過去の過ちについて常に悩み、後悔が強い。
    • 重度:「自分は価値がない」と感じ、存在自体を否定する発言が増える。

3.自殺念慮(Suicide)

  • 概要:自殺を考えたことがあるか、またどの程度の頻度でその考えが浮かぶかを評価する。
  • 評価ポイント
    • 軽度:死にたいと考えたことがあるが、具体的な計画はない。
    • 中等度:具体的な方法を考えたことがある。
    • 重度:自殺を試みたことがある、または計画を立てている。

  注意:この項目が高得点の場合は、即座に専門医の対応が必要。

4.不眠(入眠困難・中途覚醒・早朝覚醒)

  • 概要:睡眠の質を評価する。
  • 評価ポイント
    • 入眠困難:寝つきに時間がかかる(30分以上)。
    • 中途覚醒:夜中に何度も目が覚める。
    • 早朝覚醒:予定より2時間以上早く目覚め、再入眠できない。
    • 重度:ほぼ毎晩、十分な睡眠が取れない状態が続く。

5.作業と興味の減退(Work and Interests)

  • 概要:仕事や趣味への関心をどれくらい失っているかを評価する。
  • 評価ポイント
    • 軽度:時折やる気が出ないが、なんとか続けられる。
    • 中等度:好きだったことに対する興味が減退。
    • 重度:ほとんどの活動に興味がなくなり、無気力状態が続く。

6.精神運動抑制または焦燥(Psychomotor Retardation or Agitation)

  • 概要:動作や話し方の遅さ、または反対に焦燥感があるかを評価する。
  • 評価ポイント
    • 抑制型:動作が遅く、発話が減り、表情も乏しくなる。
    • 焦燥型:ソワソワしたり、じっとしていられない。

7.不安(Anxiety)

  • 概要:精神的な不安感がどの程度あるかを評価する。
  • 評価ポイント
    • 軽度:漠然とした不安を感じるが、生活に大きな影響はない。
    • 中等度:不安が強くなり、落ち着かない。
    • 重度:ほぼ常に不安で、パニック症状が出ることもある。

8.食欲の低下または増加(Appetite Changes)

  • 概要:食欲の変化(減少または増加)を評価する。
  • 評価ポイント
    • 軽度:少し食事量が減った、または増えた。
    • 中等度:明らかに食事の回数や量が変化。
    • 重度:ほとんど食べない、または過食が続く。

9.体重の変化(Weight Changes)

  • 概要:短期間での体重の増減を評価する。
  • 評価ポイント
    • 軽度:体重が2~3kg変化した。
    • 中等度:1ヶ月で5%以上の体重減少または増加。
    • 重度:食事をほとんど取らず、大幅に体重が減少。

10.性的関心の低下(Sexual Dysfunction)

  • 概要:性欲の減退を評価する。
  • 評価ポイント
    • 軽度:性欲が減少しているが、完全に失われてはいない。
    • 中等度:性的な関心がほとんどない。
    • 重度:性的な行動や欲求が完全になくなった。

11.体の症状(Somatic Symptoms)

  • 概要:頭痛、胃痛、筋肉痛などの身体的な不調を評価する。
  • 評価ポイント
    • 軽度:時折、体の不調を感じる。
    • 中等度:頻繁に体調が悪く、日常生活に支障がある。
    • 重度:ほぼ常に体調が悪く、医療的な介入が必要なレベル。

12.疲労感(Fatigue)

  • 概要:身体的なエネルギーの低下を評価する。
  • 評価ポイント
    • 軽度:少し疲れやすくなった。
    • 中等度:ほぼ毎日、何をしてもすぐに疲れる。
    • 重度:動くことが困難で、ベッドから出るのも大変。

13.希望の喪失(Hopelessness)

  • 概要:将来に対する希望があるかどうかを評価する。
  • 評価ポイント
    • 軽度:将来について少し悲観的になっている。
    • 中等度:未来に対してほとんど希望を持てない。
    • 重度:「未来には何も良いことがない」と感じている。

まとめ

HAM-Dの評価項目は、うつ病の心理的・身体的な症状を幅広くカバーしています。評価時には、患者の言葉だけでなく、表情や行動を含めて総合的に判断することが重要です。
また、HAM-Dは治療の経過を追うために繰り返し測定することが推奨されており、医師や医療従事者が慎重に評価することが求められます。

参考文献:
・Hamilton, M. (1960). “A rating scale for depression.” Journal of Neurology, Neurosurgery, and Psychiatry.
・Zimmerman, M. et al. (2004). “Inter-rater reliability of the Hamilton Depression Rating Scale.” Journal of Affective Disorders.

【ポイント】

評価者のバイアスを避ける

 評価者が主観的な判断をしないように、基準に沿ってスコアリングする。
患者の表情・態度も観察
 患者が自分の症状を軽く伝える場合もあるため、表情や態度を含めて評価する。
繰り返し評価することが重要
 治療効果を測定するためには、定期的な評価が推奨される。
自己評価尺度(PHQ-9など)と併用すると有用


📊 評価の次に大切なこと

HAM-Dで重症度を把握した後は、日常での気分変化や生活リズムを継続的に確認することが重要です。

※本リンクは広告を含みます。臨床使用は各施設の方針に従ってください。

【うつ病治療・セルフケアの最新動向】

うつ病の治療は薬物療法や心理療法が中心ですが、近年ではCBD(カンナビジオール)など補助的なアプローチにも注目が集まっています。


セロトニン受容体(5‑HT1A)への作用

CBDは脳内のセロトニン受容体(5‑HT1A)に作用することで、気分の調整や不安症状の改善につながる可能性が示唆されています。動物実験や小規模な臨床試験において、セロトニン活性の変化を通じて抑うつ様行動が軽減された報告があるため、うつ病に対する補助的な役割が期待されています。

抗炎症・神経保護作用

CBDは炎症性サイトカインを抑制し、神経細胞の保護や再生(神経可塑性)を促進する作用も報告されています。うつ病は神経炎症が関与する疾患と考えられているため、こうした作用経路からCBDの抗うつ効果が考えられています

内因性カンナビノイド・システム(ECS)との関係

人間にはもともとエンドカンナビノイド(ECS)が備わっており、ストレス・感情・気分の制御に重要な役割を果たしています。一部の研究では、ECSの機能不全がうつ病の原因になる可能性があり、CBDはECSを調整することで気分を安定させる補助的な影響があるとされています

現状のエビデンス

現時点では動物実験や小規模なヒト試験が中心で、CBDのうつ病に対する有効性を確立するには大規模臨床試験が必要です。しかしながら、抗不安・抗うつを示すデータが蓄積しつつあり、「補助療法」や「自己ケアの一環」として注目されています

注意点と限界

CBDはセロトニン受容体への作用、炎症の抑制、内因性カンナビノイド・システムの調整など、多様な作用機序を通じて、うつ症状の軽減に期待が寄せられています。まだ研究段階ですが、「補助的セルフケア」として関心が高まっており、使用する場合には医療者との連携や製品の品質に注意が必要です。

関連する評価尺度

PHQ-9(自己記入式のうつ評価)
GAD-7(不安症状の評価)

【ふかぼりコラム①】HAM-Dは本当に万能なのか?

HAM-Dは、うつ病の評価尺度として世界中で使用されていますが、「すべてのうつ病患者に適用できるのか?」という疑問もあります。実際に、HAM-Dにはいくつかの限界が指摘されています。

まず、HAM-Dは**「典型的なうつ病」**を対象にして設計されており、すべてのうつ病タイプに適しているわけではありません。例えば、**非定型うつ病(Atypical Depression)**は、過眠や過食、鉛様麻痺感(手足が重く動きにくい感覚)などの症状を特徴とします。しかし、HAM-Dの評価項目は、不眠や食欲低下を重視しており、非定型うつ病の特徴が適切に反映されない可能性があります。

また、HAM-Dは主に医師や心理士が評価する尺度であり、患者自身が感じている主観的な症状と必ずしも一致しないことがあります。例えば、患者が強い疲労感や絶望感を抱えていても、評価者の観察によっては低いスコアがつけられることがあります。そのため、最近では、患者自身が回答する自己評価尺度である**BDI(Beck Depression Inventory)PHQ-9(Patient Health Questionnaire-9)**などと併用することが推奨されています。

さらに、HAM-Dはスコアの解釈が評価者によって異なる可能性があるという課題もあります。特に、経験の浅い評価者は、患者の発言や表情を正しく解釈することが難しい場合があります。これを解決するために、構造化された面接ガイド(SIGH-D: Structured Interview Guide for the Hamilton Depression Rating Scale)が開発され、評価の標準化が進められています。

こうした課題を踏まえ、HAM-Dだけに頼るのではなく、複数の評価尺度を併用することが重要です。例えば、HAM-Dで医療者の視点から評価し、BDIやPHQ-9で患者自身の主観的な症状を把握することで、より正確な診断が可能になります。

参考文献:
・Williams, J. B. W. (1988). “A structured interview guide for the Hamilton Depression Rating Scale.” Archives of General Psychiatry.
・Bagby, R. M., et al. (2004). “The Hamilton Depression Rating Scale: Has the Gold Standard Become a Lead Weight?” American Journal of Psychiatry.

【ふかぼりコラム②】HAM-Dと映画・文学に描かれるうつ病

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HAM-Dは医療現場で使われる評価尺度ですが、実は映画や文学の世界でも、うつ病の症状がリアルに描かれている作品が多くあります。これらの作品をHAM-Dの視点から見てみると、どのように「うつ病らしさ」が表現されているのかが分かります。

映画におけるうつ病の描写

例えば、映画『メランコリア(Melancholia)』(2011年)は、うつ病の心理状態を映像で巧みに表現した作品として知られています。主人公は、明らかにHAM-Dの「抑うつ気分」「興味の減退」「精神運動抑制」に該当する症状を示しており、日常の出来事にも関心を示さず、無気力な状態が続きます。映画全体が、うつ状態の心理的なリアルさを視覚的に伝えている点が特徴です。

また、『リトル・ミス・サンシャイン(Little Miss Sunshine)』(2006年)に登場するフランク(スティーブ・カレル演じるキャラクター)は、自殺未遂後の精神状態を描いており、HAM-Dの「罪責感」「自殺念慮」などのスコアが高くなりそうなキャラクターの典型例といえるでしょう。

文学におけるうつ病の描写

文学の世界では、ヘミングウェイの『老人と海』や村上春樹の『ノルウェイの森』などが、HAM-Dの評価項目に関連する心理描写を含んでいます。特に『ノルウェイの森』では、登場人物のレイコや直子が精神的な不安定さを抱えており、HAM-Dの「不安」「抑うつ気分」「自殺念慮」などの評価項目に当てはまる部分が多く見られます。

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HAM-Dの観点で映画・文学を考察する意義

HAM-Dの項目を基準に映画や文学を分析することで、うつ病の症状がどのように一般社会で理解されているのかを知る手がかりになります。また、フィクションの世界に描かれるうつ病のイメージと、実際の臨床における症状との違いを比較することも、精神医療を学ぶうえで興味深い視点となるでしょう。

近年では、うつ病に関する正しい知識を広めるために、映画や小説が啓発の手段として活用されることも増えています。たとえば、Netflixのドラマ『13の理由(13 Reasons Why)』は、うつ病と自殺の問題について社会的な議論を巻き起こしました。こうした作品をHAM-Dの観点から読み解くことで、うつ病に対する理解をより深めることができるかもしれません。

参考文献:
・Rosenstock, J. (2013). Depression in Film and Literature: A Comparative Analysis. Cambridge Scholars Publishing.
・Karp, D. A. (1996). Speaking of Sadness: Depression, Disconnection, and the Meanings of Illness. Oxford University Press.

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