
目次
【ALSFRS-Rとは】
ALSFRS-R(修正版筋萎縮性側索硬化症機能評価尺度)は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の進行を客観的に評価するための尺度 である。このスケールは、ALS患者の日常生活動作(ADL)や運動機能の低下 を追跡し、疾患の進行度を測定するために使用される。
ALSFRS-Rは、呼吸機能を含む12の評価項目 からなり、各項目は0~4点のスコア で評価される。最大スコアは48点であり、スコアが低いほど症状が進行していることを示す。
特徴
- ALSの進行を定量的に評価できる
- 臨床試験や治療効果の判定に使用される
- 呼吸機能を含めた全身の機能障害を評価できる
ALSFRS-Rは現在、ALSの治療研究や臨床現場で標準的に使用されている。
参考文献
Cedarbaum JM, et al. “The ALSFRS-R: A revised ALS functional rating scale that incorporates assessments of respiratory function.” J Neurol Sci. 1999;169(1-2):13-21.
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歴史
ALSFRSはもともと1990年代に開発されたが、初期のバージョンでは呼吸機能の評価が含まれていなかった。そのため、ALSの進行に伴う呼吸障害を正確に反映できないという問題があった。
1999年に、呼吸機能を考慮したALSFRS-R(Revised)が発表され、これによりALSの病態をより包括的に評価できるようになった。ALSFRS-Rは、多くの臨床試験で用いられ、疾患の進行度や治療の有効性を判定する際の標準指標となっている。
参考文献
Cedarbaum JM, et al. “The ALSFRS-R: A revised ALS functional rating scale that incorporates assessments of respiratory function.” J Neurol Sci. 1999;169(1-2):13-21.
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開発の背景
ALSは進行性の神経変性疾患であり、運動機能の低下が急速に進行する。従来のALS評価尺度では、日常生活動作(ADL)の低下を測定できたが、呼吸機能の評価が不十分だった。しかし、ALS患者の多くは最終的に呼吸筋麻痺によって生命が脅かされる ため、呼吸機能を評価することが重要と考えられた。
そこで、ALSFRSを改良し、呼吸機能に関する3項目を追加 したALSFRS-Rが開発された。これにより、ALSの全身的な影響をより正確に評価 できるようになった。
参考文献
Cedarbaum JM, et al. J Neurol Sci. 1999;169(1-2):13-21.
【準備】
ALSFRS-Rを評価する際には、以下の準備が必要である。
- 患者のリラックスした状態を確認(過度の緊張が評価に影響を与える可能性がある)
- 質問票とスコアシートを準備(標準化された評価を行うため)
- 呼吸機能を測定する機器を準備(肺活量測定など)
- 評価者は統一された基準に基づいて採点を行う(トレーニングが推奨される)
ALSFRS-Rは、患者の自覚症状に基づく質問と、医師の客観的な評価を組み合わせて行われる ため、適切な環境で実施することが重要である。
参考文献
Cedarbaum JM, et al. J Neurol Sci. 1999;169(1-2):13-21.
採点のポイント
- ALSFRS-Rは、0~4点の5段階評価(正常→重度障害)で各項目を評価する
- 12の評価項目(運動機能・呼吸機能を含む)
- スコアの合計は最大48点(正常)~最小0点(最重度)
参考文献
Cedarbaum JM, et al. J Neurol Sci. 1999;169(1-2):13-21.
【判定】
ALSFRS-Rの総スコアは、ALSの進行度を示す。
- 40点以上:軽症(自立可能)
- 30~40点:中等度(ADLの制限あり)
- 20~30点:重度(車椅子使用)
- 20点未満:最重度(呼吸補助が必要な状態)
参考文献
Cedarbaum JM, et al. J Neurol Sci. 1999;169(1-2):13-21.
【項目の解説】
ALSFRS-Rは、運動機能・日常生活動作(ADL)・呼吸機能を総合的に評価する12の項目 で構成されており、それぞれ0~4点の5段階評価で採点される。スコアが高いほど機能が保たれており、低いほど障害が進行していることを示す。
ここでは、各項目を詳細に解説し、それぞれの評価基準について説明する。
運動機能の評価
① 言語機能(発話能力) [0~4点]
患者の構音障害を評価する。ALSでは舌や口唇の運動機能低下により、発話が困難になる。
- 4点:正常な発話
- 3点:やや不明瞭な発話だが、会話は可能
- 2点:明らかに不明瞭な発話で、聞き取り困難
- 1点:単語のみ話せるが、会話はほぼ不可能
- 0点:発話不能(コミュニケーション不可)
② 唾液分泌のコントロール(流涎) [0~4点]
ALSの進行に伴い、口腔筋の機能低下により唾液が制御できなくなる。
- 4点:正常(唾液の制御可能)
- 3点:軽度の唾液過多
- 2点:唾液が顕著に増加し、口元に溜まる
- 1点:唾液が流れ落ちる(流涎)
- 0点:唾液管理が完全にできず、吸引が必要
③ 嚥下機能 [0~4点]
ALSでは嚥下機能が低下し、食事や水分摂取が困難になる。
- 4点:正常な嚥下
- 3点:固形物を食べるのがやや困難
- 2点:流動食が必要
- 1点:経口摂取が困難で経管栄養が必要
- 0点:完全に経口摂取不可能
④ 筆記・細かい手作業 [0~4点]
上肢の巧緻運動を評価し、文字を書く、ボタンを留めるなどの細かい作業ができるかを測定する。
- 4点:正常な動作が可能
- 3点:やや遅いが、問題なく書字や作業ができる
- 2点:著しく動作が遅いが、一応できる
- 1点:文字を書くのが困難、ボタンが留められない
- 0点:書字や細かい作業が完全に不可能
⑤ 歩行機能(下肢の運動) [0~4点]
ALSでは下肢の筋力低下が進行すると歩行が困難になり、車椅子や介助が必要になる。
- 4点:独立歩行可能
- 3点:歩行は可能だが、補助具(杖など)が必要
- 2点:歩行はできるが、介助が必要
- 1点:歩行不能(車椅子使用)
- 0点:全く移動できず、完全介助が必要
日常生活動作(ADL)の評価
⑥ 起き上がり・寝返り [0~4点]
ベッド上での動作(寝返り、起き上がる動作)を評価する。
- 4点:正常に起き上がり可能
- 3点:時間がかかるが、補助なしで起き上がれる
- 2点:部分的な補助が必要
- 1点:完全な介助が必要
- 0点:自力での動作が全くできない
⑦ ドレッシング(衣服の着脱) [0~4点]
- 4点:問題なく衣服の着脱ができる
- 3点:やや動作が遅いが、自力で着脱可能
- 2点:部分的な介助が必要
- 1点:ほぼ介助が必要
- 0点:完全な介助が必要
呼吸機能の評価
⑧ 呼吸機能(安静時) [0~4点]
ALSでは呼吸筋の障害により、呼吸困難が進行する。
- 4点:正常な呼吸が可能
- 3点:軽い息切れを感じる
- 2点:会話時に息切れを感じる
- 1点:夜間の人工呼吸器が必要
- 0点:日中も人工呼吸器が必要
⑨ 呼吸機能(努力呼吸) [0~4点]
咳をする、深呼吸をするなどの動作を評価する。
- 4点:正常
- 3点:やや力が弱い
- 2点:咳や深呼吸が著しく弱い
- 1点:呼吸補助が必要
- 0点:完全な人工呼吸が必要
ALSFRS-Rのスコアと重症度の分類
ALSFRS-Rの合計スコアは0~48点の範囲で評価される。スコアが低くなるほどALSの進行が進んでいることを示す。
スコア | 重症度 | 主な特徴 |
---|---|---|
40~48点 | 軽症 | ほぼ自立しているが、軽度の症状あり |
30~39点 | 中等度 | 一部のADLに支障があり、歩行や発話に軽度の問題あり |
20~29点 | 重度 | 介助が必要、歩行困難または車椅子使用 |
10~19点 | 最重度 | 完全介助が必要、呼吸補助が必要になる場合あり |
0~9点 | 末期 | 人工呼吸器や完全な介助が必要 |
ALSFRS-Rは、定期的に測定することで進行速度の把握や治療効果のモニタリングに役立つ。
まとめ
ALSFRS-Rは、運動機能・ADL・呼吸機能を包括的に評価する尺度 であり、ALSの進行状況を定量的に把握するために不可欠である。特に、呼吸機能の評価が追加されたことで、ALSの全身的な影響をより正確に測定 できるようになった。スコアの変化を定期的に記録することで、進行の速度を把握し、適切な介入を行うことが重要 である。
参考文献
Cedarbaum JM, et al. “The ALSFRS-R: A revised ALS functional rating scale that incorporates assessments of respiratory function.” J Neurol Sci. 1999;169(1-2):13-21.
【ポイント】
- スコアの変化がALSの進行速度を示す
- 評価の一貫性を保つため、トレーニングを受けた評価者が行う
- 定期的な測定が重要(3か月ごとなど)
参考文献
Cedarbaum JM, et al. J Neurol Sci. 1999;169(1-2):13-21.
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【ふかぼりコラム①】ALSFRS-Rは本当に正確なのか?

ALSFRS-RはALSの進行を評価する標準的な尺度だが、その正確性については議論がある。スコアは患者の自己申告や医師の観察に基づいており、評価者によるバラつきが生じる可能性が指摘されている。特に、発話や嚥下機能の評価では、患者が実際よりも軽症と感じて自己評価する場合があり、病状の進行を過小評価するリスクがある。
また、ALSFRS-Rは運動機能の低下には敏感だが、認知機能の変化や疲労感、生活の質(QOL)の低下を十分に反映できないという課題がある。ALSの一部の患者では、前頭側頭型認知症(FTD)を伴うことがあるが、ALSFRS-Rには認知機能の評価項目がない。そのため、患者の全体的な健康状態を把握するには、他の評価尺度と併用する必要がある。
最近では、ウェアラブルデバイスやAIを活用した客観的な運動機能評価が進んでおり、ALSFRS-Rの主観的要素を補完する技術が開発されつつある。将来的には、リアルタイムのデータ収集とAI解析による、より正確なALS評価が可能になるかもしれない。
参考文献
・Cedarbaum JM, et al. “The ALSFRS-R: A revised ALS functional rating scale that incorporates assessments of respiratory function.” J Neurol Sci. 1999;169(1-2):13-21.
・Wicks P, et al. “Measuring function in ALS using self-reported outcome measures.” Amyotroph Lateral Scler. 2011;12(4):263-271.
【ふかぼりコラム②】ALSの未来とALSFRS-Rの進化

ALSは未だ根本的な治療法が確立されていない疾患だが、近年、遺伝子治療や細胞治療の研究が進展している。例えば、特定の遺伝子変異を持つALS患者に対して、RNA干渉技術(RNAi)を用いた遺伝子治療が試験的に行われている。また、幹細胞移植による神経保護治療の臨床試験も進行中であり、ALSの進行を遅らせる可能性が期待されている。
このような新しい治療法の開発に伴い、ALSFRS-Rの役割も変化しつつある。現在、ALSFRS-Rは臨床試験の主要な評価尺度として使用されているが、治療法が多様化するにつれ、より詳細で個別化された評価基準が求められるようになる。例えば、遺伝子治療を受けた患者と従来の治療を受けた患者では、進行のパターンが異なる可能性があり、それを正確に測定する新しい評価指標が必要になるかもしれない。
また、ALSFRS-Rに代わる新しいスコアリングシステムとして、AI解析を活用した「デジタルALS評価」の導入も進んでいる。患者の日常生活の動作をウェアラブルデバイスで記録し、リアルタイムで解析することで、より精密なALSの進行評価が可能になる。このような技術が確立されれば、ALSFRS-Rの手動評価に頼らず、自動化された客観的評価が標準となる日も近いかもしれない。
参考文献
・Kubota K, et al. “Wearable technology for ALS patient monitoring: A new frontier in disease progression tracking.” NPJ Digital Medicine. 2021;4:21.
・Paganoni S, et al. “Neurofilament light chain as a biomarker in ALS clinical trials.” J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2020;91(1):12-19.