MoCAとは?(Montreal Cognitive Assessment)評価用紙の使い方・カットオフ値と重症度を簡単&わかりやすく解説【みんなの評価.com】 -

MoCAとは?(Montreal Cognitive Assessment)評価用紙の使い方・カットオフ値と重症度を簡単&わかりやすく解説【みんなの評価.com】

【MoCAとは】

MoCA(Montreal Cognitive Assessment)は、軽度認知障害(MCI)や初期の認知症をスクリーニングするための認知機能検査です。記憶、注意、言語、視空間認知、抽象的思考など、複数の認知領域を総合的に評価し、30点満点で採点されます。一般に26点未満が認知機能低下の可能性を示唆します。MoCAはMMSE(ミニメンタルステート検査)よりもMCIの検出感度が高く、約10分で実施可能なため、臨床や研究で広く活用されています。
参考文献:Nasreddine, Z. S., et al. (2005). “The Montreal Cognitive Assessment, MoCA: a brief screening tool for mild cognitive impairment.” Journal of the American Geriatrics Society, 53(4), 695-699.


歴史

MoCAは、2005年にカナダの神経学者 Ziad Nasreddine 博士らによって開発されました。当時、認知症の評価にはMMSEが主流でしたが、MMSEでは軽度認知障害(MCI)の検出が難しいことが課題でした。Nasreddine博士は、この課題を解決するために、より感度の高い認知機能検査としてMoCAを開発しました。MoCAは短時間で実施可能でありながら、多くの認知領域を評価できる点が特徴です。現在では30以上の言語に翻訳され、世界中で臨床や研究に利用されています。
参考文献:Nasreddine, Z. S., et al. (2005).

開発の背景

MoCAの開発の背景には、軽度認知障害(MCI)の早期発見の必要性がありました。MMSEではMCIの識別が難しく、早期の認知機能低下を見逃してしまうことが多かったためです。特に、実行機能や注意、視空間認知の評価が不十分であることが問題視されていました。Nasreddine博士らは、これらの認知機能を短時間で評価できる新しいツールを開発することを目指し、MoCAを設計しました。MoCAは、従来の評価方法に比べ、MCIをより高い感度で検出できるよう工夫されています。
参考文献:Nasreddine, Z. S., et al. (2005).

【準備】

  • MoCA検査用紙(最新バージョンを公式サイトから入手)
  • 筆記用具(鉛筆またはボールペン)
  • ストップウォッチまたは時計(時間制限のある課題の測定用)
  • 静かな環境(集中できる場所)
  • 検査マニュアル(採点基準や実施方法を確認)
  • 教育歴の確認資料(加点の判断に必要)

MoCAは簡便な検査ですが、実施環境を整えることで、より正確な評価が可能になります。
参考文献:MoCA公式サイト(https://www.mocatest.org/)

採点のポイント

MoCAは30点満点で採点され、以下のポイントが重要です。

  • 26点以上:正常範囲
  • 21~25点:軽度認知障害(MCI)の疑い
  • 20点以下:認知症の可能性

採点の際には、特に 視空間・実行機能、記憶、注意、言語、抽象的思考 の評価が重要です。また、教育歴が12年未満の場合、1点を加点 するルールがあります。
参考文献:Nasreddine, Z. S., et al. (2005).

【判定】

MoCAのスコアに基づき、以下のように判定されます。

  • 正常(26点以上):加齢による影響はあるものの、認知機能の低下は見られない。
  • 軽度認知障害(21~25点):記憶や注意に軽度の障害がある可能性があり、定期的な評価が推奨される。
  • 認知症の可能性(20点以下):さらなる詳細検査が必要。

判定は参考値であり、専門医による診断が必要です。
参考文献:MoCA公式サイト

【項目の解説】

MoCAは、7つの認知領域 を総合的に評価することで、軽度認知障害(MCI)や初期の認知症を早期に発見できるよう設計されています。各領域の特徴や評価方法を詳しく解説します。


視空間・実行機能(5点)

この領域は、物の形や空間的な関係を理解する能力、および計画的に動作を実行する能力を評価します。

  • 立方体模写(1点):三次元の立方体を見本通りに描く課題。
    • 直線が歪んでいたり、奥行きの表現が不正確だと減点。
  • 交互連結試験(1点):数字とアルファベットを交互に結ぶ(例:「1-A-2-B-3-C…」)。
    • 規則性を理解し、素早く正確に実行できるかを評価。
  • 時計描画(3点):11時10分の時刻を示すアナログ時計を描く。
    • 円の形が正しい(1点)
    • 数字が適切に配置されている(1点)
    • 針が正しく配置されている(1点)

▶ 意味:この領域の低下は、アルツハイマー型認知症やパーキンソン病に関連する認知機能障害の初期兆候として現れることが多い。


記憶(5点)

記憶の保持と再生能力を評価します。

  • 即時再生(0点):5つの単語(例:「顔・絹・教会・赤・バナナ」)を3回繰り返して覚えさせる。
    • この段階では得点なし(学習段階)。
  • 遅延再生(5点):数分後に、最初に覚えた5つの単語を思い出せるか。
    • 1語につき1点。

▶ 意味:アルツハイマー病では、この遅延再生のスコアが特に低くなる傾向がある。


注意(6点)

集中力や注意を持続する能力を評価します。

  • 数字の順唱(1点):3~5桁の数字を聞いて、そのまま繰り返す。
  • 数字の逆唱(1点):3~5桁の数字を聞いて、逆の順番で答える。
  • 100から7を順に引く(3点):「100-93-86-79-72…」と計算できるか。
    • 5回連続で正解なら3点、それ以下は部分点あり。
  • タップテスト(1点):「Aが聞こえたら手を叩く」など、特定の刺激に反応する課題。

▶ 意味:前頭葉の機能を反映し、パーキンソン病や認知症の初期兆候を示すことがある。


言語(3点)

語彙力や言語処理能力を評価します。

  • 動物の名前(1点):ライオン・サイ・ラクダなど、3つの動物の名前を言う。
    • 一般的な動物であればOK。特殊な動物(例:カピバラ)では不可。
  • 文章復唱(2点):文を聞いて、正確に繰り返す。
    • 「今日はとてもいい天気です。」などの短い文を完全に再現できるか評価。

▶ 意味:言語機能の低下は、アルツハイマー病や失語症を伴う認知症で見られやすい。


抽象的思考(2点)

論理的な思考力や概念の理解力を評価します。

  • 類似性問題(2点):2つの単語(例:「オレンジとバナナ」)の共通点を答える。
    • 「両方とも果物」など、適切な抽象的説明ができれば1点。
    • 2問出題し、合計2点満点。

▶ 意味:前頭葉の機能低下があると、具体的な答え(例:「どっちも丸い」など)になりやすい。


遅延再生(5点)

数分前に学習した5つの単語を思い出せるか。

  • 覚えた単語(例:「顔・絹・教会・赤・バナナ」)を5つ全て言えれば満点。
  • 一部しか思い出せない場合は部分点あり。

▶ 意味:アルツハイマー病では、ヒントを与えても単語を思い出せないことが多い。


見当識(6点)

現在の時間や場所を正しく認識できるか評価します。

  • 日付・月・年・曜日・場所・都市を答える(各1点)

▶ 意味:認知症が進行すると、まず「日付」→「曜日」→「月」→「年」→「場所」の順で答えられなくなる。


まとめ

項目満点評価する能力低下の兆候が見られる疾患
視空間・実行機能5点図形認識・計画力アルツハイマー病・パーキンソン病
記憶5点記憶保持・再生アルツハイマー病
注意6点集中力・計算力前頭葉機能障害・パーキンソン病
言語3点語彙力・発話能力失語症・アルツハイマー病
抽象的思考2点概念理解前頭葉機能低下
遅延再生5点長期記憶アルツハイマー病
見当識6点時間・空間認識認知症全般

MoCAは、各領域をバランスよく評価することで、MCIや認知症の早期発見に役立ちます。特に、記憶や実行機能の低下はアルツハイマー病の初期症状として現れやすいため、注意深くスコアを確認することが重要です。

【ポイント】

リラックスした状態で実施する(過度な緊張はスコアに影響する)

静かな環境を確保(周囲の雑音を最小限に)

繰り返し実施する場合、同じバージョンを使わない(学習効果を防ぐ)

教育歴の影響を考慮する(教育歴12年未満なら加点)

これらのポイントを守ることで、より正確な評価が可能になります。
参考文献:MoCA公式サイト

【ふかぼりコラム①】MoCAはIQテストじゃない!

MoCAのスコアが低いと「自分は頭が悪い?」と心配する人がいますが、MoCAはIQ(知能指数)を測るテストではなく、認知機能のスクリーニングを目的としています。高IQの人でも、ストレスや睡眠不足、注意力低下などでスコアが下がることがあります。MoCAはあくまで脳の健康チェックのためのツールとして活用するのがポイントです。
参考文献:MoCA公式サイト

【ふかぼりコラム②】世界の著名人も受けた?


MoCAは、世界の著名人も受けたことがある ことで話題になったことがあります。その一例が、アメリカの元大統領ドナルド・トランプ氏 です。

2018年、トランプ氏の健康診断の一環としてMoCAが実施され、30点満点 という結果が報告されました。このことが報道されると、「大統領が認知症検査を受けた」ということ自体が話題となり、MoCAの知名度が一気に上がるきっかけになりました

また、ある医師によると、MoCAを受けた患者が「このテスト、トランプも受けたんだよね?」と話すケースが増えたそうです。普段は緊張しがちな検査でも、「著名人もやっている」と知るとリラックスできる人もいるようです。

その他の 認知機能検査(Cognitive Assessment)

改訂長谷川式簡易知能評価(HDS-R)
https://igaku-hyouka.com/nintikinou-hasegawa/
MMSE(Mini-Mental State Examination)
https://igaku-hyouka.com/mmsemini-mental-state-examination/

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