
目次
【UPDRSとは】
UPDRSは、パーキンソン病(PD)の症状の進行を客観的に評価するために開発された国際的な指標である。この尺度は、患者の運動症状、日常生活への影響、精神的・認知的な状態、治療の影響などを包括的に評価するために設計されており、臨床診療や研究で広く活用されている。
UPDRSは、特にパーキンソン病の治療効果を測定するために欠かせないツールであり、現在の標準評価法の一つである。2008年には改訂版であるMDS-UPDRS(Movement Disorder Society-sponsored revision of the UPDRS)が発表され、従来のUPDRSよりも精度が向上し、患者の生活の質(QOL)をより包括的に評価できるようになった。
参考文献
Goetz CG, et al. “Movement Disorder Society-sponsored revision of the Unified Parkinson’s Disease Rating Scale (MDS-UPDRS).” Mov Disord. 2008;23(15):2129-2170.
↓↓↓↓ パーキンソン病といえば! ↓↓↓↓
歴史
UPDRSは1987年にStanley Fahnらによって開発された。それ以前のパーキンソン病の評価基準は統一されておらず、各研究機関や医師によって異なる尺度が使われていたため、臨床研究の比較が困難であった。
UPDRSは、統一された評価スケールを提供することで、臨床試験や長期的な経過観察の信頼性を向上させた。しかし、従来のUPDRSには限界もあり、特に非運動症状の評価が不十分であるという指摘があった。そのため、2008年にMDS-UPDRSが発表され、より詳細で信頼性の高い評価が可能になった。
参考文献
Fahn S, et al. “Unified Parkinson’s Disease Rating Scale.” Recent Developments in Parkinson’s Disease. 1987.
開発の背景
UPDRSが開発された背景には、パーキンソン病の進行を統一的な方法で測定し、異なる研究や治療法の比較を可能にする必要があった。特に、従来の評価方法では、患者の状態を主観的に捉えすぎる傾向があり、データの一貫性が確保されにくかった。
また、1980年代後半はパーキンソン病治療の進歩が著しく、新しい薬剤や外科的治療が次々に登場していた。そのため、これらの治療法の効果を正しく評価し、エビデンスを蓄積するために、標準化された評価スケールが求められていた。
参考文献
Martinez-Martin P, et al. “An evaluation of the Unified Parkinson’s Disease Rating Scale (UPDRS) as a measure of disability and quality of life in Parkinson’s disease.” Mov Disord. 2011;26(15):2331-2341.

【準備】
UPDRSの評価を行う前に、適切な準備を行うことが重要である。まず、評価者はMDS-UPDRSのトレーニングを受けることが推奨されており、評価の一貫性を保つために定期的な再評価が必要である。
患者の状態を正しく評価するために、以下の準備が推奨される:
- 環境:静かで落ち着いた空間で評価を行う。
- 患者の状態:薬の影響を考慮し、適切なタイミングで評価を実施する。
- 評価ツール:スコアシートや録音・録画機器を用いて、客観的な記録を残す。
参考文献
Schrag A, et al. “Clinimetric testing of the MDS-UPDRS.” J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2006;77(4):419-423.
採点のポイント
GCSの採点は、開眼反応(E)、言語反応(V)、運動反応(M)の3つの要素で構成される。開眼反応は4点満点、言語反応は5点満点、運動反応は6点満点で、それぞれの合計がGCSスコアとなる。評価時には、患者の最良の反応を記録することが重要であり、一時的な要因(薬剤、ショックなど)を考慮しながら判断する必要がある。
参考文献
・Teasdale G, Jennett B. “Assessment of coma and impaired consciousness: A practical scale.” Lancet. 1974.
・Reith FC, Brennan PM, Maas AI, Teasdale GM. “Lack of standardization in the use of the Glasgow Coma Scale: results of international surveys.” J Neurotrauma. 2016.
【判定】
UPDRSは0~4の5段階評価で採点され、0が正常、4が最も重症とされる。評価の際に注意すべきポイントは以下の通り。
- 一貫した評価:異なる評価者間でのバラつきを減らすため、統一基準を用いる。
- 患者の協力:患者が緊張せず、自然な動作ができるよう配慮する。
- ビデオ録画:評価の客観性を高めるため、可能であれば記録を残す。
参考文献
Goetz CG, et al. Mov Disord. 2008;23(15):2129-2170.
【項目の解説】
UPDRS(統一パーキンソン病評価尺度)は、大きく4つのパート(Part)に分かれており、それぞれが異なる側面の評価を担当している。ここでは、各パートの詳細と評価のポイントについて解説する。
Part I:非運動症状の評価
Part Iは、パーキンソン病の非運動症状(Non-Motor Symptoms, NMS)を評価するセクションであり、精神状態、行動、気分などを対象とする。このパートは以下のような項目から構成されている。
- 認知機能の低下(例:記憶障害、注意力の低下)
- 抑うつ症状や不安(例:うつ状態、情緒不安定)
- 幻覚や妄想(例:視覚幻覚、被害妄想)
- 自律神経障害(例:便秘、起立性低血圧、頻尿)
このパートの評価は、患者自身や家族からの聞き取りが重要となる。特に、認知機能の低下や気分障害は、患者が自覚していない場合もあるため、家族や介護者の意見を取り入れることが求められる。
Part II:日常生活動作(ADL)の評価
Part IIでは、パーキンソン病が日常生活に与える影響を評価する。具体的には、患者がどの程度自立して生活できているか、どのような支援が必要かを判断するために以下のような項目が評価される。
- 会話の障害(例:声の小ささ、発話の困難さ)
- 食事の困難さ(例:嚥下障害、手の震えによる食事の困難)
- 歩行能力と転倒リスク(例:すくみ足、バランス障害)
- 衣服の着脱、ボタンの留め外しの難しさ
- 寝返りや起き上がりの困難さ
患者自身の報告に基づいて評価されるため、症状が変動する場合は「最も困難な状態を基準に評価する」ことが推奨されている。
Part III:運動機能の評価(臨床検査)
Part IIIは、UPDRSの中でも最も重要なセクションであり、医師や理学療法士が直接患者の運動機能を評価する。これは、パーキンソン病の診断や進行度の測定において欠かせない部分である。
- 安静時振戦(例:手、足、顎の震え)
- 筋固縮(例:関節のこわばり、受動的な動作への抵抗感)
- 動作緩慢(無動)(例:動きの遅さ、表情の乏しさ)
- 歩行異常(例:すくみ足、小刻み歩行、体の前傾)
- 姿勢反射障害(例:押された際のバランス保持の困難さ)
このパートは、運動症状の進行を正確に把握するために、ビデオ撮影や複数の評価者による採点が推奨される。
Part IV:治療の影響と合併症の評価
Part IVは、パーキンソン病の治療(特に薬物治療)によって生じる副作用や運動合併症を評価する。
- ジスキネジア(不随意運動)(例:レボドパ誘発性ジスキネジア)
- 運動波動(ON/OFF現象)(例:薬の効果の変動)
- 異常な不随意運動(例:ジストニア)
このパートのスコアが高い場合、治療の見直しが必要になることが多い。特に、レボドパ長期使用による運動合併症は、治療方針に大きな影響を与える。
MDS-UPDRSと従来のUPDRSの違い
2008年に発表されたMDS-UPDRSは、従来のUPDRSよりも精度が向上している。主な違いは以下の通り。
従来のUPDRS | MDS-UPDRS | |
---|---|---|
評価範囲 | 主に運動症状を中心 | 非運動症状を含めた総合評価 |
スコアの細分化 | 5段階評価 | 0.5刻みの細かい評価が可能 |
患者の主観評価 | 一部反映 | 日常生活やQOLに関する詳細な質問を追加 |
研究との適合性 | 限定的 | 国際的な臨床研究での標準化が進んでいる |
MDS-UPDRSは、より包括的で詳細な評価が可能であるため、近年ではUPDRSに代わり広く使用されている。
まとめ:UPDRSの活用と今後の課題
UPDRSは、パーキンソン病の診断や進行度の評価に不可欠な尺度であり、特にMDS-UPDRSは非運動症状を含めた包括的な評価を可能にした。
しかし、UPDRSには以下のような課題も残されている。
- 評価者の熟練度の影響 → 評価の一貫性を保つためのトレーニングが必要
- 患者の状態の変動 → ON/OFFの影響を考慮する必要がある
- 新しいテクノロジーの活用 → スマートデバイスによる客観的評価の導入が進行中
近年では、AIやウェアラブルデバイスを活用した自動評価システムの開発が進んでおり、将来的にはより客観的で精密な評価が可能になると期待されている。
参考文献
・Goetz CG, et al. “Movement Disorder Society-sponsored revision of the Unified Parkinson’s Disease Rating Scale (MDS-UPDRS).” Mov Disord. 2008;23(15):2129-2170.
・Martinez-Martin P, et al. “An evaluation of the Unified Parkinson’s Disease Rating Scale (UPDRS) as a measure of disability and quality of life in Parkinson’s disease.” Mov Disord. 2011;26(15):2331-2341.
・Schrag A, et al. “Clinimetric testing of the MDS-UPDRS.” J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2006;77(4):419-423.
【ポイント】
- 評価者の一貫性を保つことが重要
- 患者の状態を正確に記録し、時間経過とともに比較できるようにする
- MDS-UPDRSではより詳細な評価が可能になっている
参考文献
Martinez-Martin P, et al. Mov Disord. 2011;26(15):2331-2341.
【ふかぼりコラム①】なぜUPDRSは国際標準なのか?

パーキンソン病の評価尺度としてUPDRSが国際標準となった理由には、「統一性」「客観性」「臨床応用のしやすさ」 の3つの要素がある。
1. 統一性の確保
1980年代以前、パーキンソン病の評価基準は各国や医療機関によってバラバラだった。例えば、イギリスでは「ホーエン・ヤール重症度分類(Hoehn & Yahr Scale)」が使われ、一方でアメリカでは異なる尺度が採用されていた。このような状況では、国際的な臨床試験で結果を比較することが困難だった。UPDRSはこれらのバラつきを解消し、全世界の医師や研究者が共通の基準でパーキンソン病を評価できるようになった。
2. 客観性の向上
UPDRSは、臨床医の主観的な判断に依存しないよう設計されている。例えば、「動作緩慢(無動)」の評価では、単に「動きが遅い」と判断するのではなく、「手を開閉する速度」「連続した動作のスムーズさ」といった具体的な基準を設けている。このような詳細な基準により、評価の客観性が向上し、異なる医師が評価しても一定の信頼性を保てるようになった。
3. 臨床応用のしやすさ
UPDRSは、研究だけでなく日常臨床でも活用しやすいように設計されている。例えば、治療の効果を測定する際、「投薬前後でのUPDRSスコアの変化」を見ることで、薬の有効性を客観的に判断できる。また、リハビリテーションの効果測定にも利用され、運動療法の効果を数値化する手段としても役立っている。
このような理由から、UPDRSは世界的に広く受け入れられ、現在ではパーキンソン病の評価において「ゴールドスタンダード(国際標準)」となっている。特に、2008年に発表されたMDS-UPDRSは、さらに精度が向上し、非運動症状の評価を追加することで、患者の生活の質(QOL)まで包括的に評価できるようになった。
参考文献
・Goetz CG, et al. “Movement Disorder Society-sponsored revision of the Unified Parkinson’s Disease Rating Scale (MDS-UPDRS).” Mov Disord. 2008;23(15):2129-2170.
・Martinez-Martin P, et al. “An evaluation of the Unified Parkinson’s Disease Rating Scale (UPDRS) as a measure of disability and quality of life in Parkinson’s disease.” Mov Disord. 2011;26(15):2331-2341.
↓↓↓↓ パーキンソン病のリハビリについてリハビリの権威が書かれています ↓↓↓↓
【ふかぼりコラム②】パーキンソン病の未来とUPDRS

パーキンソン病の診断と治療は日々進化しており、UPDRSもそれに応じて変化を遂げている。近年では、AIやウェアラブルデバイスを活用した評価が進んでおり、将来的には「医師の診察なしでUPDRSスコアを算出する」ことも可能になるかもしれない。
1. AIと機械学習による自動評価
現在、多くの研究機関がAIを活用したUPDRSの自動評価に取り組んでいる。例えば、カメラやセンサーを使って患者の動作を記録し、そのデータをAIに解析させることで、運動症状の重症度を自動的に評価する技術が開発されている。特に、「安静時振戦」「歩行異常」「姿勢保持障害」などは、AIが客観的に判断しやすい項目とされている。
実際、近年の研究では、スマートフォンのカメラを使った簡易的なUPDRS評価システムが提案されており、医療機関に行かなくても自宅でスコアを測定できる可能性が出てきている。このような技術が実用化されれば、遠隔診療の普及にも大きく貢献するだろう。
2. ウェアラブルデバイスによるリアルタイムモニタリング
従来のUPDRS評価は、診察時の短時間の観察に基づいているが、パーキンソン病の症状は時間帯や活動によって変動するため、評価の精度には限界があった。そこで、最近では**ウェアラブルデバイスを活用した「24時間リアルタイムモニタリング」**が注目されている。
例えば、スマートウォッチやセンサーベルトを装着することで、以下のようなデータを自動収集できる。
- 手の振戦の頻度や強さ(加速度センサーを利用)
- 歩行パターンの変化(ジャイロセンサーを利用)
- 運動のON/OFF時間(薬の効果の変動を検出)
このような技術を活用すれば、患者自身が気づかない細かい症状の変化も捉えることができ、より精密な治療計画の立案につながる。
3. 遺伝子治療や再生医療との融合
現在、パーキンソン病の治療として、遺伝子治療や幹細胞治療の研究が進んでいる。これらの新しい治療法の効果を評価する際にも、UPDRSは重要な役割を果たす。
例えば、iPS細胞を用いたドーパミン神経細胞の移植治療が実施される際、その効果を客観的に測定するために、UPDRSスコアが活用される。今後、新しい治療法が確立されるにつれて、UPDRSの評価方法もさらに進化していくことが予想される。
4. 未来のUPDRSはどうなる?
今後、UPDRSは次のような方向へ進化すると考えられる。
- AIによる全自動評価 → スマートフォンやカメラを使った診断支援システムの普及
- 個別化医療の実現 → 患者ごとのデータを解析し、最適な治療法を提案
- 非接触型の評価方法の開発 → リモートでの診断が可能になる
こうした技術の進歩により、パーキンソン病の管理がより効率的になり、患者のQOL向上に大きく貢献するだろう。未来のUPDRSは、単なる評価ツールではなく、「診断」「治療計画」「予後予測」を包括的に支援するプラットフォームへと進化していく可能性が高い。
参考文献
・Espay AJ, et al. “Technology in Parkinson’s disease: Challenges and opportunities.” Mov Disord. 2019;34(8):1033-1039.
・Kubota K, et al. “Smartphone-based assessment of Parkinson’s disease symptoms using machine learning.” NPJ Parkinson’s Disease. 2020;6:26.
その他の 神経疾患評価
・NIHSS(National Institutes of Health Stroke Scale)
・ALSFRS-R(Amyotrophic Lateral Sclerosis Functional Rating Scale – Revised)