目次
1. はじめに
政府は、高額療養費制度の見直しに伴い、患者の受診控えが発生する可能性があるとして、その実態を調査する方針を示しました。高額療養費制度は、一定額以上の医療費負担を軽減するための仕組みですが、制度変更により患者の医療アクセスが制限される可能性が指摘されています。本記事では、制度見直しの背景や影響、政府の対応について詳しく解説します。
2. 高額療養費制度とは？
(1) 制度の概要
高額療養費制度は、医療費の自己負担額が一定の限度額を超えた場合、その超過分を患者に払い戻す仕組みです。これにより、重い病気や慢性疾患の治療が必要な患者でも、経済的負担を抑えながら適切な医療を受けられるようになっています。
(2) 限度額の計算方法
高額療養費の自己負担限度額は、年齢や所得によって異なります。例えば、70歳未満の一般的な所得層では、
「80,100円 ＋ (総医療費 – 267,000円) × 1%」
という計算式が適用されます。（※詳細は厚生労働省の資料を参照）
(3) これまでの制度の役割
- がん治療や手術など高額な医療を必要とする患者の負担軽減
- 低所得層でも継続的な治療を受けられる保障
- 医療格差の是正
3. 制度見直しの背景
(1) 医療費増加と財政圧迫
近年の医療費増加により、高額療養費制度の財源確保が課題となっています。高齢化社会が進む中で、医療費の負担が国家財政に与える影響が大きくなっており、政府は制度の持続可能性を高めるための改革を進めています。
(2) 自己負担限度額の引き上げ案
政府は、自己負担限度額の引き上げを検討しています。具体的には、以下のような変更が議論されています。
- 一般所得層の限度額を約10～20％引き上げ
- 低所得層の特例措置の見直し
- 複数回の入院・通院に対する支援の調整
(3) 過去の改正事例
過去にも自己負担限度額の改正が行われましたが、その際にも受診控えが問題視されました。例えば、2017年の改正では、一定の所得層の限度額が増額され、一部の患者が通院回数を減らす傾向が見られました。
4. 受診控えの懸念
(1) 受診控えの実態
高額療養費制度の見直しにより、特に低所得者層の受診控えが懸念されています。
- 慢性疾患患者が治療を途中でやめる
- がんや糖尿病などの治療開始が遅れる
- 経済的理由で必要な検査を受けない
(2) 専門家の見解
ある医療経済学者は、「自己負担限度額の引き上げは、結果的に重症化リスクを高め、将来的な医療費増加につながる可能性がある」と指摘しています。
(3) 過去のデータと比較
日本医療政策機構の調査によると、自己負担限度額の変更後、低所得層の受診頻度が減少したケースがあることがわかっています。
5. 政府の対応と実態調査
(1) 政府の対応
政府は、受診控えの影響を評価するため、全国規模の実態調査を検討しています。
- 各医療機関での診療件数の変動を分析
- 患者アンケート調査の実施
- 医療費支出の変化を追跡
(2) 具体的な調査方法
政府の調査では、
① 保険請求データを基に、治療中断の傾向を分析
② 医療機関へのヒアリングを実施
③ 患者のアンケートを活用し、受診控えの要因を特定
といった方法が検討されています。
(3) 改革の方向性
受診控えの影響が大きいと判断された場合、政府は以下の対策を検討する可能性があります。
- 低所得層向けの追加支援措置
- 受診控え防止のための医療機関への助成金支給
- 短期的な限度額据え置き措置
6. まとめ
高額療養費制度の見直しは、医療費削減の一環として行われるものの、患者の医療アクセスに影響を及ぼす可能性があります。特に、経済的な理由での受診控えは、長期的には医療費の増加につながるリスクがあるため、慎重な制度設計が求められます。政府の今後の調査結果と対応に注目が集まっています。
7. 参考文献
- 厚生労働省：「高額療養費制度の概要」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/juuyou/kougakuiryou/index.html - 厚生労働白書（2024年版）：「医療費抑制と制度改正の動向」
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/ - 日本医療政策機構：「医療費負担と受診控えに関する調査報告」
https://www.healthpolicy.or.jp/policy/ - 財務省 財政制度等審議会：「社会保障制度の持続可能性と今後の課題」
https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/index.htm
