リハビリテーションで使用する評価スケールを 目的別にわかりやすく整理しました。
リハビリテーションでは、患者さんの身体機能や 日常生活動作、疼痛、認知機能などを把握するために、 さまざまな評価スケールが使用されます。
しかし、評価方法にはそれぞれ特徴があり、 同じ患者さんでも評価の目的によって 適切な尺度は異なります。
このページでは、臨床でよく使用される評価スケールを ADL、疼痛、認知機能、神経疾患、精神・心理機能に分類し、 それぞれの特徴や使い分けを紹介します。
また、病院や訪問リハビリテーションなどの場面を想定し、 評価結果をどのように臨床へ活かすかについても解説します。
目次
リハビリテーションにおける評価スケールとは?
評価スケールは、患者さんの状態を 一定の基準に沿って記録するための方法です。
例えば、日常生活動作の自立度をFIMで評価したり、 痛みの強さをNRSで数値化したりすることで、 患者さんの状態を客観的に共有しやすくなります。
また、同じ評価方法を継続して使用することで、 介入前後の変化を確認することができます。
評価スケールを使用する主な目的
- 患者さんの現在の状態を把握する
- 問題点や残存機能を整理する
- リハビリテーションの目標を設定する
- 介入前後の変化を確認する
- 退院支援や生活環境の調整に活用する
- 多職種間で共通の情報を共有する
重要なのは、評価結果から患者さんの状態を理解し、 具体的な治療や支援につなげることです。
同じ点数であっても、 患者さんによって問題点や必要な介入は異なります。
① 日常生活動作(ADL)の評価
ADL評価では、食事、更衣、排泄、移乗、移動など、 日常生活に必要な動作の自立度を把握します。
回復期リハビリテーション病棟や地域包括ケア病棟、 訪問リハビリテーションなど、 さまざまな場面で使用されます。
FIM
Functional Independence Measure
FIMは、日常生活動作に必要な介助量を 18項目で評価する尺度です。
運動項目13項目と認知項目5項目で構成され、 各項目を1~7点で評価します。
- 18項目
- 各項目1~7点
- 合計18~126点
- 運動機能と認知機能を評価
- 介助量の変化を把握しやすい
Barthel Index
バーセルインデックス
Barthel Indexは、 基本的な日常生活動作の自立度を 10項目で評価する尺度です。
比較的簡便に実施でき、 ADLの全体像を把握する際に役立ちます。
- 10項目
- 合計0~100点
- 基本的なADLを評価
- 比較的簡便に使用できる
- 入院・在宅など幅広い場面で活用
FIMとBarthel Indexの違い
| 比較項目 | FIM | Barthel Index |
|---|---|---|
| 項目数 | 18項目 | 10項目 |
| 合計点 | 18~126点 | 0~100点 |
| 認知項目 | あり | 独立した認知項目なし |
| 介助量の評価 | 7段階で比較的細かく評価 | 各動作の自立度を評価 |
| 特徴 | 介助量の違いを把握しやすい | 基本的なADLを簡便に把握しやすい |
臨床での活用例:回復期病棟
例えば、歩行器を使用して病棟内を移動している 脳卒中患者さんを考えます。
歩行距離が延びていても、 方向転換時に介助が必要な場合や、 安全確認のために見守りが必要な場合があります。
FIMでは、単に歩ける距離だけでなく、 実際に必要な介助の程度を評価します。
そのため、歩行能力の評価とADL評価を組み合わせることで、 患者さんの生活上の問題をより具体的に把握できます。
② 疼痛の評価
疼痛評価では、痛みの強さだけでなく、 痛みの部位、性質、出現する動作、 日常生活への影響などを確認します。
特に整形外科疾患や慢性疼痛では、 疼痛の変化を継続して確認することが重要です。
NRS
Numeric Rating Scale
痛みの強さを0~10の数値で表す評価方法です。
一般的には、0を痛みなし、 10を想像できる最も強い痛みとして評価します。
- 0~10の11段階
- 短時間で実施できる
- 口頭でも回答できる
- 疼痛の経時的変化を確認しやすい
VAS
Visual Analogue Scale
一般的には100mmの直線上に、 患者さんが痛みの強さを示す評価方法です。
線上の位置を測定することで、 痛みの強さを数値化します。
- 一般的に100mmの直線を使用
- 痛みの強さを連続的に表現
- 視覚的な理解が必要
- 記入や指示が難しい場合は注意
MPQ
McGill Pain Questionnaire
痛みの強さだけでなく、 痛みの性質などを多面的に把握するための質問票です。
鋭い痛み、締めつけられるような痛みなど、 患者さんが感じている痛みの特徴を 整理する際に役立ちます。
- 痛みの性質を評価
- 痛みを多面的に把握
- 慢性疼痛などで活用
- 使用する版によって構成が異なる
NRSとVASはどう使い分ける?
NRSは、数値で痛みを表現するため、 口頭での評価にも使用しやすい方法です。
一方、VASは直線上の位置によって痛みを示すため、 視覚機能や上肢機能などの影響を受ける場合があります。
どちらも痛みの強さを評価する方法ですが、 患者さんの理解力や身体機能に応じて選択します。
疼痛評価では「いつ痛いか」も重要
例えば、膝関節の術後患者さんで、 安静時NRSが2、立ち上がり時NRSが6だった場合、 単に「痛みは6」と記録するだけでは 状態を十分に把握できません。
安静時、動作時、荷重時など、 評価した条件を明確にすることで、 治療前後の変化を比較しやすくなります。
③ 認知機能の評価
認知機能評価では、記憶、注意、見当識、 言語、実行機能などの状態を確認します。
認知機能の問題は、 リハビリテーションの理解や学習、 日常生活の安全性にも影響する場合があります。
HDS-R
改訂長谷川式簡易知能評価スケール
日本で開発された認知機能の スクリーニング検査です。
基本的に口頭で実施でき、 比較的短時間で評価できます。
- 30点満点
- 9項目
- 記憶や見当識などを評価
- 口頭中心で実施可能
MMSE
Mini-Mental State Examination
記憶、見当識、注意、言語、 構成能力などを評価する検査です。
書字や図形模写を含むため、 身体機能や視覚機能の影響にも注意が必要です。
- 30点満点
- 複数の認知領域を評価
- 書字・図形模写を含む
- 認知機能のスクリーニングに使用
MoCA
Montreal Cognitive Assessment
軽度認知障害などのスクリーニングを 目的として開発された評価方法です。
記憶や注意に加えて、 実行機能や視空間認知なども評価します。
- 30点満点
- 実行機能を含む
- 視空間認知を評価
- 軽度の認知機能低下の把握に活用
認知機能評価をリハビリに活かす
例えば、歩行能力が改善していても、 注意機能が低下している場合には、 周囲の状況を確認しながら移動することが 難しい場合があります。
また、記憶機能の低下がある場合には、 新しい動作方法や自主練習の手順を 覚えることが難しいことがあります。
評価結果を参考にしながら、 環境調整や練習方法を検討することが大切です。
④ 神経疾患・意識障害の評価
神経疾患では、疾患の特徴に応じた評価方法が必要です。
脳卒中、パーキンソン病、ALSなどでは、 運動機能や日常生活動作だけでなく、 病状の変化を把握することも重要になります。
NIHSS
National Institutes of Health Stroke Scale
脳卒中による神経学的な障害の程度を 評価するための尺度です。
意識、運動、感覚、言語などを評価します。
- 脳卒中の神経学的重症度を評価
- 運動・感覚・言語などを含む
- 急性期などで広く使用
JCS
Japan Coma Scale
意識レベルを評価するための尺度です。
刺激に対する反応などから、 意識障害の程度を分類します。
- 意識レベルの評価
- 比較的短時間で確認できる
- 状態変化の共有に活用
UPDRS
Unified Parkinson’s Disease Rating Scale
パーキンソン病の症状や 日常生活への影響を評価するための尺度です。
運動症状だけでなく、 非運動症状や日常生活への影響なども 評価の対象となります。
- パーキンソン病の評価
- 運動症状を把握
- 日常生活への影響を評価
- 使用する版を確認することが重要
ALSFRS-R
ALS Functional Rating Scale-Revised
ALSの機能障害を評価するための尺度です。
球症状、上肢・下肢機能、 呼吸機能などに関する項目で構成されています。
- 12項目
- 合計0~48点
- 日常生活機能を評価
- 呼吸に関する項目を含む
- 経時的な変化の確認に活用
ALSFRS-Rだけで呼吸状態を判断しない
ALSFRS-Rには呼吸に関する項目がありますが、 これだけで呼吸機能を十分に評価できるわけではありません。
必要に応じて、肺活量、呼吸筋力、 咳嗽能力、夜間低換気の有無などを確認します。
特にALSでは、身体機能の評価と 呼吸機能の評価を組み合わせることが重要です。
⑤ 精神・心理機能の評価
身体疾患や障害のある患者さんでは、 抑うつ症状や不安症状が 日常生活やリハビリテーションに影響することがあります。
精神・心理評価は、こうした症状の程度を把握し、 必要な支援につなげるために役立ちます。
⑥ リハビリ評価スケールの選び方
評価方法を選ぶ際は、 「何を明らかにしたいのか」を 最初に考えることが重要です。
| 評価したい内容 | 主な評価方法 | 確認するポイント |
|---|---|---|
| ADLの自立度 | FIM・Barthel Index | 必要な介助量や生活動作の自立度 |
| 痛みの強さ | NRS・VAS | 安静時・動作時などの疼痛の程度 |
| 痛みの性質 | MPQ | 痛みの特徴や多面的な症状 |
| 認知機能 | HDS-R・MMSE・MoCA | 記憶・注意・見当識・実行機能など |
| 脳卒中の神経学的重症度 | NIHSS | 運動・感覚・言語などの障害 |
| 意識レベル | JCS | 意識障害の程度 |
| パーキンソン病の症状 | UPDRS・MDS-UPDRS | 運動症状や生活への影響 |
| ALSの生活機能 | ALSFRS-R | 日常生活機能と経時的な変化 |
| 抑うつ症状 | PHQ-9・BDI・HAM-D | 症状の程度や変化 |
| 不安症状 | GAD-7 | 不安症状の程度 |
評価を選ぶ際の3つのポイント
1.評価の目的を明確にする
例えば、歩行能力を評価したい場合と、 病棟での移動の自立度を評価したい場合では、 必要な評価方法が異なります。
歩行能力の評価では、 歩行速度やバランス能力などを確認します。
一方、病棟での移動の自立度を把握したい場合は、 FIMなどによるADL評価が役立ちます。
2.患者さんの状態に合った方法を選ぶ
評価方法によっては、 筆記、口頭回答、一定の姿勢保持などが必要です。
失語症、難聴、視覚障害、上肢麻痺などがある場合は、 評価結果に影響する可能性があります。
標準化された実施条件を確認したうえで、 使用可能な評価方法を選択します。
3.結果を臨床で活用できるか考える
評価を実施しても、 結果が治療方針や生活支援に結びつかなければ、 十分に活用できているとはいえません。
評価結果から何がわかり、 どのような介入につなげられるかを 考えることが大切です。
⑦ 臨床場面での評価スケールの組み合わせ
実際のリハビリテーションでは、 1つの評価方法だけで患者さんの状態を 十分に把握できるとは限りません。
評価の目的に応じて、 複数の方法を組み合わせることがあります。
ケース① 脳卒中後の患者さん
右片麻痺があり、歩行練習を進めている患者さんを考えます。
運動機能が改善していても、 病棟での移動には見守りが必要な場合があります。
このような場合、 運動機能やバランス能力の評価に加えて、 FIMなどによるADL評価を行うことで、 生活場面での自立度を把握できます。
また、注意機能の低下が疑われる場合は、 認知機能評価も検討します。
ケース② 人工膝関節置換術後の患者さん
膝関節の可動域や筋力が改善していても、 荷重時の痛みによって 歩行や階段昇降が制限される場合があります。
このような場合は、 関節可動域や筋力の評価に加えて、 NRSなどによる疼痛評価を行います。
安静時と動作時の痛みを区別し、 どの動作で症状が強くなるのかを 確認することが重要です。
ケース③ ALSの患者さん
ALSでは、四肢の筋力低下だけでなく、 呼吸機能や日常生活機能の変化にも 注意する必要があります。
ALSFRS-Rによって日常生活機能の変化を確認しながら、 必要に応じて呼吸機能や咳嗽能力などを評価します。
また、病状の進行に伴って、 コミュニケーション手段や生活環境の調整が 必要になることもあります。
評価結果を、補助具の選定や 生活支援の検討につなげることが重要です。
⑧ 評価結果を解釈する際の注意点
評価スケールは便利な方法ですが、 点数だけで患者さんの状態を判断することはできません。
合計点だけでなく項目ごとに確認する
例えば、FIMの合計点が同じ患者さんでも、 移動に介助が必要な方と、 認知機能の問題によって支援が必要な方では、 リハビリテーションの内容が異なります。
合計点だけでなく、 どの項目で点数が低いのか、 なぜ介助が必要なのかを確認します。
評価条件をできるだけ統一する
疼痛評価であれば安静時と動作時、 身体機能評価であれば補助具の使用条件など、 評価した状況を記録します。
経時的に比較する場合は、 可能な範囲で評価条件を統一することが大切です。
点数の変化と生活上の変化を確認する
評価スケールの点数が改善していても、 実際の生活で困っていることが 解決していない場合があります。
評価結果を患者さんの目標や生活状況と照らし合わせ、 介入内容を検討することが重要です。
評価尺度によっては、 使用する版、実施条件、採点方法、 著作権や利用条件が定められています。
実際に使用する際は、 公式マニュアルや所属施設の運用基準を確認してください。
また、スクリーニング検査の結果のみで、 疾患の診断を確定することはできません。
⑨ 臨床で使える評価支援ツール
評価スケールは、 正しく採点することに加えて、 結果を記録し、 経時的な変化を確認することも重要です。
当サイトでは、 臨床での採点や記録を支援するツールを紹介しています。
FIM臨床評価ツール
FIMの18項目を入力し、 運動項目・認知項目の合計点や 総合点の計算を支援するツールです。
採点時に迷いやすい項目について、 具体例を確認できる機能もあります。
FIMツールの詳細を見る※外部サイトの有料コンテンツです。
PHQ-9評価ツール
PHQ-9の回答を入力し、 合計点や重症度の確認を支援するツールです。
A4印刷やオフラインでの使用に対応しています。
PHQ-9ツールの詳細を見る※外部サイトの有料コンテンツです。
※評価ツールは臨床判断を補助するものであり、 診断や治療方針を自動的に決定するものではありません。
まとめ|評価の目的に合ったスケールを選ぶ
リハビリテーションでは、 ADL、疼痛、認知機能、神経疾患など、 さまざまな領域の評価が必要になります。
それぞれの評価スケールには特徴があり、 評価したい内容や患者さんの状態によって、 適切な方法は異なります。
- ADL評価: FIM・Barthel Index
- 疼痛評価: NRS・VAS・MPQ
- 認知機能評価: HDS-R・MMSE・MoCA
- 神経疾患評価: NIHSS・UPDRS・ALSFRS-R
- 意識障害の評価: JCS
- 精神・心理評価: PHQ-9・HAM-D・BDI・GAD-7
重要なのは、 評価スケールの点数をつけることではなく、 結果をどのように解釈し、 患者さんの生活やリハビリテーションに 活かしていくかということです。
評価の目的を明確にし、 必要に応じて複数の評価方法を組み合わせながら、 患者さんの状態を総合的に把握していきましょう。
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参考文献・関連資料
各評価スケールの詳しい実施方法や採点基準については、 個別の解説記事および公式資料をご確認ください。
- Keith RA, Granger CV, Hamilton BB, Sherwin FS. The functional independence measure: a new tool for rehabilitation. Advances in Clinical Rehabilitation. 1987;1:6-18.
- Mahoney FI, Barthel DW. Functional Evaluation: The Barthel Index. Maryland State Medical Journal. 1965;14:61-65.
- Folstein MF, Folstein SE, McHugh PR. “Mini-mental state”. Journal of Psychiatric Research. 1975;12(3):189-198.
- Nasreddine ZS, et al. The Montreal Cognitive Assessment, MoCA: A Brief Screening Tool for Mild Cognitive Impairment. Journal of the American Geriatrics Society. 2005;53(4):695-699.
- Cedarbaum JM, et al. The ALSFRS-R: a revised ALS functional rating scale that incorporates assessments of respiratory function. Journal of the Neurological Sciences. 1999;169(1-2):13-21.
※評価尺度の使用条件や推奨される実施方法は、 改訂される場合があります。 実際の臨床では最新の公式資料をご確認ください。
ご利用にあたって
本ページは、 医療・介護・リハビリテーションに関わる方への 情報提供を目的としています。
掲載している内容は、 診断や治療方針を保証するものではありません。
実際の評価や臨床判断では、 患者さんの状態や各評価尺度の公式資料、 所属施設の運用基準などを確認してください。